2014年9月4日木曜日

荒川三山~赤石岳

2014年8月31日~9月4日

椹島ロッジにて前泊。
ここまでの道程が長く、南アルプスの奥深さを感じる。

登山初日、千枚小屋までの登りは途中から雨が降り出した。
不安定な天候が当たり前だった今シーズンだけど、翌日からの縦走路はやっぱり晴れて欲しい。
そんな願いが天に届いたのか、荒川三山から赤石岳の縦走路と下山まで最高の天候に恵まれた。

のんびり眺望を楽しみ、秋に移り変わる可憐なお花畑に癒される最高の縦走路。

危険個所は気を引き締めながら、全行程4泊5日の旅を堪能する。


そして、今回の最高峰、荒川三山の悪沢岳(東岳)に到着し、一息入れ、足元の悪いザレ場の下りでそれは起こった。

後方から「あ~!」というお客様の声。
隊列の前方に位置していた人は、みな落石が起こったと思った。

その直後、「落ちた!」という声が耳に入った。

直ぐに登り返し状況を確認すると、男性1名が急峻なルンゼの先にうつ伏せで倒れている姿が見えた。
登山道からは約8メートル程の地点で、あと僅か1メートル先は切れ落ちた崖になっていることが直ぐに分かった。

他のお客様には、足場の安全な場所で待機してもらい、救助者に絶対にその場から動かないように声を掛けた。
返事は無かったが、今にも崩れ落ちそうなザレたルンゼの石にしがみ付いている様子が見て取れる。

「助けられる」

厳しい状況だが、動かないでいてくれる姿を見てそう思った。

直ぐにハーネスを装着しザイルを取り出した。
支点となるものを探す。
添乗員が滑落したルンゼの上部に岩を見つけたが、支点としてはやや物足りない大きさだった。
支点は絶対的に強固なものでなければいけないが、今回一番に懸念したことは落石である。

救助者の上部から懸垂下降すれば落石で更なる事故を誘発することが明らかだった。

ルンゼの直ぐ脇に大きなピクナル(尖った岩)を見つけ支点を作り懸垂下降した。
これで落石が起きても隣の筋に落下するので最初の問題はクリアしたが、もう一つの問題はザイルの長さだった。
装備しているザイルは8mm×30m。
半分に切り返して15m。
ルンゼ脇の上部に支点を作った為、ギリギリ足りないかもって直感的に感じたが、その距離は1m位だって思った。

懸垂下降し救助者に近づき確認する。血で赤く染まった口元を見て改めて滑落した事実を実感した。
予想通り僅かにザイルが足りなかったがスリングで延長し確保。ひとまず安全な場所まで移動することが出来た。

ザックを預かりチェストハーネスを身体に掛け、ルンゼの下部でビレイして自力で登攀してもらった。

自力で登れることが出来て本当に良かった。そして、あれほどの滑落で大きな怪我が無かったことが奇跡である。
あと1m先まで落ちていたら奈落の底までの状況に、何か見えない力に守られたような感覚がした。

そして、今回一番に感じたことは、自分自身の冷静さだった。
こんなにも平常心でいられるものかと自分でも驚いた。

事故は絶対に防がなければいけないけど、心のどこかで覚悟を決めてるからなのかもしれない。

毎年起こる山の事故。

この経験を今後の更なる安全に努めたいと思います。


最後に、快晴の縦走路をのんびり歩きながら最高の時間を楽しめたこと、全員無事に元気に下山出来たことを感謝します!